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全滅家族の屋敷跡 パパイアの涙

死者と生者の交差点

 沖縄本島の最南端に近い摩文仁(まぶに)、米須(こめす)まど島尻の村落を歩いていると、住む人のたえはてたいくつもの屋敷跡が目にとまる。集落の奥深くにみられる場合もあれば、戦跡地めぐりの観光バスが疾走する幹線道路沿いに幾家族分もがつらなっていることもある。多くは隆起珊瑚石灰岩を積み上げた垣に囲まれ、正面の門にあたる部分だけが開いている。あの戦争で全滅した家族の屋敷跡である。
 敷地の中央にコンクリート・ブロックでつくった小屋がある。仮づくろいの祭壇に香炉と花瓶。位牌が置かれているところもある。だが、戒名も没年月日も刻まれていない。それでも、親戚や隣近所の人が時折訪ねてきては手をあわせていくのだ。死者と生者がまみえる哀しい交差点である。

<写真>仮づくろいの祭壇に置かれた花瓶や香炉

 母屋の裏側と思われる所に、あの"鉄の暴風"をどのようにかいくぐって生き延びたのか、天に向かってまっすぐに伸びるパパイアの木を見ることがある。沖縄ではたいていどの家でもパパイアの木を一本は植える。四季をとおして結実するその実は、青いうちに野菜としてつかう。味噌汁の具(ぐ)にしたり、漬け物や刺身の具(つま)などビタミンの補給に役立つからだ。夏草に覆われた空漠とした空き地に、あたかも帰らぬ主を待つかのように黄色い実をつけるパパイアの木を見るのは正直言ってきつい。
 きついが、正視しなければならない「こと」も「もの」も人間にはある。沖縄にかぎっていえば、広々とした米軍基地のすぐ側で軒を寄せ合う超過密の街や村の姿や、その基地がもたらす事故や犯罪により命を失った人たちの遺族と接する時などはつらい。一家全滅家族の屋敷跡と同質、つまり、どちらもぼくら日本人の負の遺産だからである。
 ヤマトンチュたちの乗った戦跡めぐりの観光バスに乗り合わせた時のことである。ひめゆりの塔の「参拝」が済み、摩文仁の丘近くへ差しかかった頃、客の一人がいやみたっぷりに叫んだ。
 「なーんだよ、きょうの観光は!戦跡ばかり見にきたんじゃあねぇよ」
 歳は40前後であったか。沖縄の何を見にきたのかは知らないが、自分たちの国の直近の歴史にきちんと立ち向かうことのできない歳でもないだろう。
 本当の悲劇というものは人にはなかなか見えにくい。早い話、観光バスのガイドは全滅家族の屋敷跡の説明は何一つしない。慰霊碑など有形化したものにしか意味を認めようとしない国民性からなのか。どの観光バスも二酸化炭素をまきちらして屋敷跡の前を駆けぬけてしまう。死者たちの無念はいかばかりか。
 沖縄戦で全滅した家族とその人数は、実は正確にはわかっていない。沖縄県が把握している数は380世帯、1500人(1998年1月現在)である。被害は53市町村(当時)中、24市町村にまたがっている。戦闘の激しかった島尻に近づくにつれて増える。旧浦添(うらそえ)村牧港(まきみなと)では154世帯中35、旧真壁(まかべ)の真栄平(まえひら)では187世帯中58世帯の家族全体が死んだ。『沖縄県史』によると、西原(にしはら)町字桃原(とうばる)では51パーセント、糸満市字米須では47パーセントの「全員死」が確認されている。与那城(よなしろ)村では一家9人全員が死んだケースもある。
 だが実際には、被害者はこの数倍にも達するのではないかとの見方もある。現に南風原(はえばる)町が近年おこなった同町内の戦災調査では、県のデータ(同町の全滅家族14世帯、46人)は実際の約20分の1でしかないことがわかった。この調査では南風原町だけで246世帯(1111人)もの全滅家族が出ていたのだ。戦争で戸籍簿や住民票が消失してしまったことや、被害の大きかった村落では消息を知る人が少ないこと、さらに読谷村の「チビチリガマ集団自決」のように、事件そのものが戦後40年近くも明るみに出なかったことなどが、実態の把握を困難にしているのである。
 一家全滅というと、家族全員が直撃弾などで一瞬のうちに死んだと思いがちだが、必ずしもそうではない。ある者は敵の銃弾にたおれ、ある者はガマのなかで栄養失調死し、ある者は日本兵に殺され、そしてその父親は防衛隊の一員として戦死.....というように、時間も場所も死に方も異なるケースが少なくない。同じ家族が時間差を伴いながら、それぞれの場所で、誰にも知られずに死んでいくケースも多かったのである。なんともやりきれない話である。
 屋敷跡にたたずみ、ありったけの想像力をはたらかせてみよう。死者たちは相手を選ばずに何かを語りかけてくれるはずである。

 後半『艦砲弾の喰い残し』に続く→

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