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沖縄通信 No 8

クリントン米大統領への手紙

 クリントン大統領、私は今、ラジオから流れる沖縄・八重山諸島の古謡「弥勒節」を聞きながら、あなたへの手紙を書いています。
 この唄にうたわれた弥勒とは、東洋の人々が広く信仰する弥勒菩薩で、沖縄では古くから五穀豊穣と健康をもたらす神と信じられています。黄色い装束に身をまとい、扇をかざした弥勒菩薩が、人々の謡う弥勒節のゆるやかなリズムに乗って舞う姿は、私たちに限りない幸福感と安堵感を与えてくれます。沖縄の人々が神々に寄せるそうした純朴な心根が私は好きです。

 クリントン大統領、私が冒頭からこのような話を持ち出したのは、あなたに "東洋のこころ" 、とりわけ、戦争や軍事基地に対する沖縄の人々の気持ちをきちんと受けとめてほしいからに他なりません。
 あなたは7月21日に沖縄・糸満市の<平和の礎>での演説での中で、沖縄戦について「最大の悲劇は沖縄県民に降りかかった」と述べたうえで、「このような悲劇と体験を将来の世代が強いられることのないようにとの願いと敬意を払うために(この地に)やってきました」と語りかけました。<平和の礎>は「最も強い人間愛を示して」おり、「単に一つの戦争の慰霊碑という以上に、あらゆる戦争への慰霊碑なのです」とも述べました。

<平和の礎>を「慰霊碑」と定義することには異論がありますが、あなたの言わんとすることはよく分かります。でも、その後がいけませんでした。あなたの演説はここで一転し、「日米軍事同盟の重要性」へと突き進みました。いわく「新たにこのような碑を建てることがないよう日米同盟はある」のであり、「(同盟は今後も)維持されていかなければならない」と。そして、最後の琉球藩主・尚泰が詠んだとされる「戦世ん終てぃ、弥勒世んやがてぃ、嘆くなよ臣下、ぬちどぅ宝」(戦争の時代は終わり、やがて平和な時代がやって来る。諸人よ、嘆くことはない、命を大切にしよう)なる琉歌まで持ち出し、沖縄県民に「基地の重圧に(今後も)耐えねばならない」とまで言い切りました。

 クリントン大統領。
 あなたが言う<命>とはいったい誰の命を差しているのですか。
 あなたの言う<平和>とはどういうことですか。
 あなたの言う<人間愛>とは何なのですか。

 私はあなたに問いたいのです。胸に手をあてて考えてみて下さい。あなたの追求する<平和>は、人の命をボロ布としか見てない軍事政策、つまり<力による平和>であり、沖縄の民衆がもっとも忌み嫌ってきたものだということを。
 沖縄県が<平和の礎>に、戦う側、戦わされる側、そしてその戦いに巻き込まれて死んだ人々、そのすべての人名を刻んだ意味をあなたは本当に理解しているのでしょうか。あの記念碑は、いかなる理由によるものであれ、人と人との殺し合いは決してあってはならない、ことを訴えているのです。
 もし、そのように理解するならば、あのような演説が沖縄、増してや<平和の礎>の前でできるはずはないと私は思います。あなたの演説は死者への冒涜であり、命の尊厳や人間愛を逆手にとるものです。これは人間として恥ずべき思想であり、行為です。

 沖縄サミットが沖縄に及ぼすであろう "毒" について、私は度々ここで述べてきました。とりわけ私が危惧したのは、あなたが「沖縄基地の重要性」を参加各国首脳に強調し、それを共通認識という形で世界にアピールするのではないか、ということでした。もしそうなれば、沖縄の基地問題は「日米間の問題」から「西側主要国の問題」へと変わり、いっそう解決困難になるのでは、という思いからでした。
 幸いそれはなかったのですが、「軍事基地の重要性」を訴えた "摩文仁演説" は、21世紀を戦争の世紀から "平和と対話の世紀"にしたいとする世界の民衆の願いを裏切るものでした。
 あなたに再考と演説の修正を求めます。

 最後に、演説をつらぬく傲慢さと品位のなさについて触れておきたいと思います。
 あなたの演説(在日米国大使館翻訳、「沖縄タイムス」7月21日夕刊)からは、いま日本政府が普天間基地の県内移設をめぐって沖縄にばらまき続けている「地域振興策」なる "アメ玉政策" と同じ手法で、基地の維持を図ろうとする意図がみてとれます。米国のI T企業に沖縄県内での事業参入を呼びかけたり、沖縄の大学院生をハワイの東西センターに派遣するための「奨学金プログラム」構想の発表がそれに当たります。
 あなたはこの二つを "みやげ" に沖縄入りし、それを軍事基地を維持するための代価にしようとしたと思われます。なんと卑小な考えでしょうか。他国の人に対して失礼でもあります。基地の存在が沖縄の市民生活にもたらしている損失の大きさと、あなたも言う「日本の国土の1%以下の面積でありながら、米軍基地のための土地の75%を提供」しているこの島の理不尽さを、ささやかな "みやげ" で取り繕うやり口は醜いかぎりです。私は大統領の口から、地球というこの美しい星の<あす>をひらく哲学こそ聞きたかったのです。札びらで人の顔をはたくような下品な政治は日本だけでたくさんです。

 クリントン大統領、
 国連をも無視してユーゴに "血の雨" を降らせ、自軍にただ一人の死者を出すこともなく、数千人ともいわれる市民を殺害したあなたにそれを求めるのは無理なことでしょう。最後の琉球藩主・尚泰の言葉を指して、あなたは「(この詩には)未来への希望が託され」ていると言い、「世代を超えて私たちに語りかけて」いるとも言いました。もし、それが真意であるならば、あなたはこの小さな沖縄から率先して兵を退くべきです。
 サミットの期間中、なぜか静まり返っていた沖縄の米軍基地は、いま、息を吹き返したようにざわめきはじめ、「弥勒世」を願う祭りのうたごえは戦闘機のはげしい爆音でかき消されています。米兵による犯罪もまたぞろ頻発しています。
 これが基地の島・沖縄の現実です。

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