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9月13日(月)

 高校教科書「沖縄・琉球史」の改訂版を買った。この教科書の著者は、沖縄県立陽明高校の社会の先生で、新城俊昭(あらしろ・としあき)氏だ。

 新城さんは5歳の時、父親が米兵の運転する車にひかれて死亡し、その米兵は無罪だという体験をしている。新城氏のことは新聞等で知っていたが、そのような体験のことは今回はじめて知った。新城氏の講演会の案内を書いたチラシに書いてあった。1995年に書かれた文章らしい。

******講演会の案内より****

救われない人権 39年前の憤り、再び
- 父を蹂躙した兵士は無罪 米軍は沖縄住民を見下した -

    新城俊昭(沖縄県立陽明高校教諭)

 去る9月4日に起こった米兵3人による少女暴行事件は、沖縄県民に大きな衝撃を与えた。私も父の命を奪った39年前の米兵がおこした事故を思い出し、当時と変わらぬ基地被害の実態に憤りを覚えた。

 1956年3月、父は米兵の運転する自動車にひかれて亡くなった。私が5歳のときである。当時の沖縄では、どんな凶悪犯であれ米人に対する逮捕権・裁判権はなく、父を轢殺(れきさつ)した米兵も軍警察に逮捕され、軍事裁判で裁かれた。米兵への判決は「ノット、ギルティー(無罪)」であった。

 南国の春にしては少し肌寒かったその日、私の家は父の死を悼む村の人たちであふれかえっていた。古い造りの家の裏座で、父との最後の別れを告げている家族とは別に、私は一人、庭に出て土をいじくっていた。おそらく、父の死の意味を知らない幼い子供が、無邪気に遊んでいるのだろうと、弔問客の同情をかったにちがいない。しかし、私の小さな胸は、恐怖にも似た悲しみでいっぱいだった。庭で遊んでいたのは、父の死を認めたくないという子供ながらの必死の抵抗だった。
 出棺の時、いとこが呼びに来た。「とうとう来たか」。子供ながらに、大きな試練に立ち向かわなければならないことを覚悟した。家中の人の目が私に注がれた。「絶対に負けないぞ」と言わんばかりに、平然を装って家に上がった。父の前に座ると、母が、「父ちゃんとの最後の別れだよ」と、父の顔に覆われていた白い布をとってくれた。激しい動悸(どうき)で胸が張り裂けそうだった。
 車にひかれて死んだ父の顔は、きっとメチャメチャに変形しているのだろうと想像していたが、とてもきれいだったのが意外だった。母の温かい手が私の右手を取り、そっと父の顔にもっていった。ヒンヤリとした額に手が触れた時、私の虚勢はもろくも崩れ、「ワァー」と泣き叫んで遺体にしがみついた。それからあとの記憶はない。

 私たちの家族のような体験は、けっして例外ではなかった。この時代、沖縄のいたるところで住民の人権を無視した米兵による事件や事故が起こった。米軍が占領者として沖縄の住民を見下し、すべてに軍事を優先させてきたことが大きな原因であった。沖縄住民が、平和で豊かな島を築くために、基地の撤去と平和憲法をもった日本への復帰を願うようになったのは当然のことだった。

 私は、復帰運動の先頭に立っている先生方の後ろ姿を見ながら、いつしか教職を目指すようになっていた。沖縄の歴史とこの現実を、未来の沖縄を担う若い世代に伝えることが、私に与えられた使命だと思ったからであった。'72年沖縄は日本に復帰した。2年後、私も社会科教師として教壇に立ち、歴史教育に携わるようになっていた。

 '81年初夏、祖母の預金通帳に89万1千8百80円の金額が、沖縄総合事務局から振り込まれた。対米請求権を放棄した日本政府から支払われた父への保証金であった。「これで、沖縄県民の人権を蹂躙(じゅうりん)した米軍の罪がすべて償われたことになる」。そう思うと、やりきれない気持ちになった。それに復帰によっても、基地から派生する事件や事故はあとをたたず、県民生活をおびやかしていた。

 私は祖母の許しをえて、父の保証金を「沖縄歴史」を教えるための資金に使わせてもらった。私の本格的な地域史教育の実践運動の始まりであった。そして去年3月、教職20年の成果として、念願の「高等学校 琉球・沖縄史」(*最新版'99.9)を出版することができた。幸い、県内の高校だけでなく、本土の高校や大学デモ「沖縄歴史」のテキストとして使っていただいている。ささやかな運動だが、ようやく実を結びはじめたのである。しかし、今回の忌まわしい事件は、皮肉にも沖縄の現状は教えるだけでは変えることができない、ということを知らしめた。私の歴史教育の実践運動に、新たな課題が加わった。(了)

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